中小企業の労務問題

中小企業の労務問題〜とあるパチンコホールにて〜

【中小企業の労務問題】〜とあるパチンコホールにて〜
今回は私の知り合いの、とあるパチンコホール様の実例を挙げて、中小企業の労務問題を考えてみたいと思います。

 

日本の企業の99%は中小企業だと言われておりますので、みなさんの会社にも当てはまる部分があるかもしれません。

 

 

そのホール様は設置台数300台弱の単店で、従業員数(アルバイト含む)は約12名、月間売上高は2,500万円くらいだと思われます。

 

 

 

実例1. 勤務時間は7時間30分/日、休憩15分(5分×3回)

 

パチンコホールの現場従業員の勤務は大体どこのホールも早番と遅番の交替勤務が主流ではないでしょうか。
早番は概ね9時30頃〜17時頃、遅番は16時30頃〜0時頃ですかね。

 

 

このホール様も同様です。
が、休憩時間が5分×3回の合計15分です。俗にいうタバコ休憩と言うやつだけです。
早番は昼食時間を挟みますが、特に昼食休憩はありません。

 

 

これは、労働基準法第34条に違反します。
第34条(休憩)
1、使用者は、労働時間が6時間を超える場合においては少なくとも45分8時間を超える場合においては少なくとも1時間の休憩時間を労働時間の途中に与えなければならない。
2、前項の休憩時間は、一斉に与えなければならない。

 

 

 

労働時間が7時間30分なので、休憩時間が15分しかないのは違法ですし、5分×3回という分割した取得も2項に違反します。

 

 

 

実例2. 従業員が遊技台や遊技設備を壊した場合は損害を賠償する旨の書面を従業員に書かせる

 

そもそも労働者が会社の設備などを壊した場合に労働者はその損害を賠償しなければならないのでしょうか?

 

 

 

民法上これに関連しそうな条文は第415条(債務不履行による損害賠償)と第709条(不法行為による損害賠償)です。

 

前者は、契約などの約束事をわざとやうっかりで守らなかった人は、それによって発生した損害を賠償しなければならないという規定です。

 

例えば(私の実例で言うと)新築の家に引っ越しする時に大手引越し業者さんに依頼しましたが、搬入の際に家具を内壁にぶつけて壁紙が剥がれました。

 

 

これは事前の運送契約を引越し業者さんが過失(うっかり)により守らずに発生した損害ですので、引越し業者さんは壁紙の補修費(損害)を支払わなければなりません。

 

 

後者は、赤の他人同士でもわざとやうっかりで損害を与えた人はその損害を賠償しなければいけないという規定です。

 

よくあるのは、脇見運転で追突した人がその損害を賠償する必要があるのはこの規定が根拠です。

 

 

となると、労働者が過失(うっかり)で会社の設備など壊した場合は損害を賠償する必要がありそうです。

 

しかし、結論は賠償する必要がない若しくはあっても損害の一部のみと最高裁は判断しています。

 

一般的な規定が企業と労働者の間ではそのままは当てはまりません。

 

 

それはなぜかと言いますと、報償責任という考え方がある関係です。

 

企業は多く労働者を使って多額の利益を上げます。労働者がミスをするというリスクは、多額のリターンを得る企業が負担しなければリスクとリターンが公平ではありません。

 

リスクが大きいのでリターンも大きいのです。

 

利益だけは頂くがリスクは負担しませんという、いいとこどりは許されないのです。

 

 

 

判例は上記のような考え方なので、ホール従業員が遊技台や遊技設備をうっかり壊してもその損害を賠償する必要はほとんどないでしょう。

 

最近のパチンコ台は安定が悪いので移動の時に倒れることもよくあるでしょう。40s以上あるスロット台を階段で運べば落とすこともあるかもしれません。

 

そのようにならないように会社が指示なり方法を考えるべきです。

 

 

また、労働基準法には次のような規定もあります。
第16条(賠償予定の禁止)
使用者は、労働契約の不履行について違約金を定め、又は損害の賠償額を予定する契約をしてはならない。

 

 

 

『従業員が遊技台や遊技設備を壊した場合は損害を賠償する旨の書面を従業員に書かせる』というのはまさにこの規定に違反します。

 

 

 

実例3. 有給休暇がない

 

労働基準法第39条に規定があります。
企業は業種、業態にかかわらず、また、正社員、パートタイム労働者などの区分に関係なく、6か月継続勤務し8割以上出勤したすべての労働者に対して年次有給休暇を与えなければなりません。

最低10日で6年6か月以上勤務になると上限の20日になります。

 

 

この規定から、有給休暇がないのは明らかに違法です

 

 

 

そして、労働者からの有給休暇取得の請求があった時は会社は原則拒否できません。できるのは、その時期は忙しいので他の時期に変更してと言えるだけです。

 

 

 

実例4. 固定残業代制度で規定残業時間を超えて働いても超過部分は支払われない

 

このホールさんは労働契約では固定残業代10時間分は給料に含んでいるらしいですが、残業時間が10時間を超えても超過部分は支払われていないようです。

 

 

 

これは多くの会社の担当者が勘違いしているかもしれませんが、固定残業代を支払っていればその金額以上の残業代は一切支払わなくてもよいという訳ではありません。

 

固定残業時間を超えなくても全額の支払が必要ですし、超えれば超えた分をプラスして支払わなければなりません。

 

 

私がかつて勤めていた東証一部上場企業でさえ、この勘違いを従業員から指摘され未払い残業代を支払っていました。

 

 

実例5. 労働契約は口頭のみ

 

労働基準法第15条(労働条件の明示)
使用者は、労働契約の締結に際し、労働者に対して賃金、労働時間その他の労働条件を明示しなければならない。

 

 

 

一般論として契約は口頭だけでも成立しますので、労働契約自体は有効に締結されていますが、賃金や労働時間など書面での明示が必要な項目がありますので、書面での明示がない口頭のみの労働契約は違法となります。

 

 

 

(おまけ)

実例6. 『7』の付く日(7日、17日、27日)にはスロットコーナーで掲示し、特定機種のメダル箱を通常色と違う色の箱に換える

 

おそらく特定機種の設定が高い事を示唆するための演出だと思われますが、これは風俗営業等の規制及び業務の適正化等に関する法律第16条に違反します。

 

 

 

第16条(広告及び宣伝の規制)
営業者は、その営業につき営業所周辺における清浄な風俗環境を害するおそれのある方法で広告又は宣伝をしてはならない。

 

 

 

俗に言う煽り行為の禁止です。
公安委員会の見解は次のとおりです。
営業所の内外を問わず、看板、のぼり、ビラ、新聞折り込みチラシ等を利用して次のような表示で広告・宣伝すると同条違反となる。

 

 

高設定台を設置していることをうかがわせる表示は、著しく射幸心をそそるおそれがある。なお、当該表示の内容が事実か否かにかかわらず、設定状況をうかがわせる表示は全て著しく射幸心をそそるおそれがあるものと解される。

 

 

インターネットで調べると他店舗でも実際次のような記載がありますが、やはり同条違反の疑いがあります。
・店名に漢字の『八』が付く店舗にて、「8日の八〇〇(店舗名)は混雑が予想されます。」
・5の付く日を重視している店舗にて、「15日はチラシ投函日。○○○(店舗名)へGO!絶対ご来店下さい!15日は○○○へGO!混雑が予想されます。」
・「花の慶次、バジリスク取材日」
・「沖ドキ徹底取材」
他にも1の付く日や8の付く日などなどを強調している店舗がありますが、すべて違法の疑いがあります。

 

 

 

実例7. スロットコーナーにて『1,000枚突破』などの札を差す

 

これも同様に煽り行為の禁止に該当するおそれがあると考えます。

 

 

 

パチンココーナーに各台計数を採用している店舗でお客さんの獲得出玉が分かるように、各台のデーターランプ付近に出玉が増える状況を段階的に色で表示しているホールもあります。
これも公安委員会は快く思っていません。
やはりお客さんの射幸心を煽っているとの見解です。

 

 

 

以上、最後のおまけは別にして、みなさんの会社にも当てはまる事項があったかもしれません。
一度ご確認してみたらいかがでしょうか。

 

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